火に行く彼女

掌の小説 (新潮文庫)

掌の小説 (新潮文庫)

最近、ある人としゃべっていて高校の頃の国語のテストの話が出ました。こんな問題があったんだよね、なんて語り合っていたわけです。高校って、私なんかはもうそりゃけっこう、ひと昔以上前のことになってしまってるんで(笑)、よほど印象的な問題じゃなければ覚えていないんですが・・・。この、川端康成の「火に行く彼女」から出題されてたテストの記憶は鮮烈ですね〜。テストの設問なんかはほとんどなにも記憶していないんですが、このなんだかよく事情は呑み込めないものの、ワケありな様子にとても強烈な印象を受けたわけです。ま、テスト中でしたがね(笑)
川端康成が当時、恋人と別れたかなんかで、その恋人が夢に出てきた、と。あたりは火事で火の海なんですが(夢ね)、その恋人は敢えて火の方に走っていくんです。夢の中の「私(川端)」は「なぜ火の方へ?死ぬつもりなのですか?」と彼女に心の中で尋ねたら、彼女は、「死にたくはないけど、向こう(火のない方)にはあなたのおうちがあるから、そっちには行きたくないから」と火の方へ走る、と。そんな夢から醒めて「私」は泣いていました、っていう話です。そして、「夢という無意識の中においても、彼女の私への気持ちは完全に冷めたと、この私自身がすっかり感じ取ってしまったんだね。なぜなら、夢の中の彼女の人格はこの私が作ってるんだから」ということを(ほんとはもっと詳しくしみじみ趣き深く)述べているわけです。センチメンタル、といってしまえばそれまでなんですが(笑)、たった見開き2ページの短編の中なのに、私と彼女の気まずい事情なんかがうかがい知れる息苦しいお話です。で、これがテスト問題ですよ(笑)。いったいどんな設問だったんでしょうかね〜。ちなみに、テストといってもそれは業者テストでした。
それで、テスト後すっかりこの短編が気に入って、短編集「掌の小説」を買いました。掌に乗るほどの短く小さな、ってことなんでしょうが、それはそれは磨きぬかれた玉のような短編ばかり掲載されています。完全に独立した世界に通じる思い思いのドアが全ての短編に取り付けられているような印象です。
とりあえず、「火に行く彼女」、30秒もあれば読めるんで、オススメしておきます。