「帝銀事件を論ず」

というわけで、昨日の続きなんですが、あの後ダウンロードしていた坂口安吾の「帝銀事件を論ず」、読んでみました。どういう風に「論ず」かというと、松本清張のあの小説とは違い、事件の起きた社会的な背景とか、そういう方面からの切り口で書かれてありました。事件そのものをつぶさに考察するというよりも、なぜあのような事件がおこったのかについての考証という感じです。
戦争の影響を事件に感じ、そして、後半は政治への不満もにじませてあります。と、このように書くと、凶悪事件が起きた時の「社会が悪いから」という論なのかな?と思われそうですが、正直、少なからずそれは感じるものの、「窮乏にも負けずに正しく生活しているより多くの同胞」の存在もきちんと認めています。犯人については、戦争という異常な日常の体験をしなければ、もしかしたらごくふつうに平凡な一生を終えたかもしれない人であり、戦争によってその道徳性や礼節を麻痺させられたための凶行、と捉えているようです。「戦争」というきっかけが、(ほんとは起こすはずのない人間の背中を後押しして)犯行を起こさせた、という考え方とも言えるかも。
帝銀事件を論ず」というタイトルではありますが、事件そのものをではなく、その当時の日本の中での事件、という書き方です。事件についての記述は全体の何パーセントかな・・・というほどわずかで、帝銀事件からその当時の「日本の世相を論ず」ともいえそうな内容です。キンドル版で25回ぐらいパラっとして読み終わる短い作品でした。